こうだようふくこうぼう
コーダ洋服工房
〒155-0032  東京都世田谷区代沢2-37-15
TEL:03-3414-4817  FAX:03-3412-4817

下北沢な人々 - コーダ洋服工房 古宇田弘 -

下北沢な人々 コーダ洋服工房 - 古宇田弘 -
今回は、池ノ上駅のすぐそばに本店を構える、洋服のお直し専門店「コーダ洋服工房」の2代目社長、古宇田弘さんにお話を伺いました。



 コーダ洋服工房は1936年創業、75年もの歴史を持ち、代沢に移転して35年を数えます。大手アパレルメーカーを多数、顧客に抱える老舗で、社員数は技術スタッフを中心に90人超。都内でも有数の規模を誇ります。
 

古宇田 弘(こうた ひろし)
名  前  :古宇田 弘(こうた ひろし)
生年月日 :昭和18年9月14日
血液型   :A
出  身  :茨城県
趣  味  :旅行、散歩、音楽鑑賞、絵画鑑賞
好きな音楽:おおたか静流
好きな場所:千鳥ヶ淵、神楽坂など


 


 — 先代の古宇田敏氏から工房を継がれたのは、いつごろのことですか? そのときのお気持ちは?


27〜28歳だったから、40年近く前ですね。それ以前に、高校時代から、夕方5時には部活を切り上げて家業を手伝ってきました。裾や袖口をまつるような簡単な仕事と、お客様への届け物をやっていましたが、毎日叱られて、ちっとも楽しくなかったですね。だけど、当時は「嫌だ」とか「継がない」とか、そんなことを言う雰囲気じゃなかったんです。商売をやっている家の長男は、それを継ぐのが当たり前で、こちらが選ぶような話じゃなかった。


大学を出たら工房に入って、技術のことも経営のことも少しずつわかってきます。それで、27〜28歳になって両親とケンカになりました。経理のことなんかも含めて、いいから僕にやらせてみてくれ、と。母にはずいぶん叱られましたが、父が母を説得してくれて、工房を任されることになりました。


 — 先代のやり方から変えたところはありますか?


職人がやることは今も昔も同じです。基本的な考え方も変えていません。

ただ広告宣伝費をかけたり、いわゆる営業をしなくても良い品質、良いサービス、良い価格で仕事をしていけば、お客様に喜んで頂ける。
この方針で経営をしていきたいと思っています。


 


 — 経営に関することは若いころから勉強されてきたんですか?



いや、きちんと本を読んで系統立てて勉強するようになったのは最近です。ランチェスター戦略だとか、ピーター・ドラッカーだとか。また、経営と直結するかどうかは別にして、『暮しの手帖』編集長の松浦弥太郎さんや、早稲田大学名誉教授の松原正さんを尊敬しています。


ランチェスター戦略は、イギリスの航空工学エンジニアであるランチェスターが第一次世界大戦から見出した、空中戦に関する法則で、要は戦争にどう勝つかという話です。これが経営に置き換えられるんじゃないかということで、1950年代半ば以降、ランチェスターの法則から派生した本がたくさん出ています。たとえば、弱者(戦力の少ない部隊)は戦線を広げてはいけない、戦力を分散させてはいけない、という話は商売に通じるところがありますよね。うちは池ノ上エリアに5店舗が集中していますから、ランチェスター戦略に沿っているといえるかもしれません(笑)。

 でも、僕は最近、社長の仕事イコール経営ではないんじゃないかな、と思い始めたんです。みんなが気持ちよく仕事をする環境を整えること、手助けをすること、それから次代に向けて少しずつ引継ぎをすること。それが僕の仕事だと考えています。



— 松浦さんとは面識がおありなんだそうですね。


僕は、子どものころ、「特殊児童」と呼ばれる問題児でした。宿題をやっていかなかったり、小テストの答案を毎回わざと白紙で出したり。担任の先生と馬が合わない年があって、反抗的な態度を取っていたら、その年以降、どうも周りとうまくやるのが難しくなってしまった。大人になっても、人と付き合うのがうまくなく、この辺りへ引っ越してきた当初は、近所の人に挨拶するのが怖くて、人を見かけたら物陰に隠れるほどでした(笑)。


そういう自分を変えたくて、松原先生に手紙を書いたら、ありがたいことに「遊びにいらっしゃい」とお返事をくださって。人生の師匠のような存在です。

松浦弥太郎さんとも一度、お目にかかったことがあって、そうすると著書を読んだときの感じ方が格段に強くなるんですね。松浦さんがこちらに直接、語りかけてくださっているような感覚になるからでしょうか。靴を磨くとか、笑顔をつくる練習をするとか、松浦さんの本には、人生をよくするためにどうしたらいいか、とても具体的に書いてあるので、参考になります。

僕は自分が今、ホテルでいえば三ツ星だと思うんです。松浦さんは五ツ星。松浦さんに学ぶことで、これから四ツ星くらいの男になることが、僕の目標です。


—「四ツ星」になるために、どんなことをしていますか?


これまで僕は、絵を見たり音楽を聞いたりコーヒーを飲んだり、人が作ったものを味わうほうだったんですが、自分で何かやろうと思って、最近はコーヒーを入れるようになりました。豆を買ってきて自分で挽いて、コーヒープレスを使うこともあれば、ペーパードリップを使うこともあります。このごろは朝、配送の若い子たちが来るのにあわせて入れます。以前は缶コーヒーを出していたんですが、僕自身が好きじゃない缶コーヒーを、この子たちに飲ませるのは変な話だな、と考え直しました。


配送に使う自動車の手入れもやるようになりました。そうすると不思議なもので、以前はしょっちゅうどこかへぶつけて車体に傷を作っていたんですが、自分で掃除するようになった途端にぶつけなくなりました。愛着ってこういうことか、と思いましたね。それまでだって、若い子が自主的に車内禁煙のルールを設けて車を大切にしてくれているのは知っていたし、僕も車を大切にしようと頭では思っていたんですが、自分の手で長く触れるようになると、気持ちの入り方がまったく違ってきます。




—お仕事をされてきて、一番うれしかった出来事を教えてください。


10年以上も前の話になりますが、大手アパレルメーカーの幹部の方に、仕事のアイデアを認めていただいたことが思い出に残っています。その方は個人のお客様として、うちをご贔屓にしてくださっていて、そのときはコートの直しを頼まれました。袖のほつれを直す仕事だったんですが、縫い目を一度ほどいて布を延ばして縫い直しました。袖が短くなるどころか、以前より長くできたので、大変喜んでいただきました。

しばらくして、別の人から、そのお客様がご自分の会社で100人からの社員へ、私がした仕事について話してくださったと聞きました。社員の参考になる話として、ご紹介いただいたようです。職人として、とても誇らしかったです。うれしかったですね。


 — 東日本大震災の後、お仕事に影響はありましたか?


もちろん、あります。みんな、水や電池、トイレットペーパーなど日用品の確保が最優先になって、洋服は二の次、三の次です。当然、工房の仕事も減っています。これまで、僕はいい加減な社長で、仕事熱心でもなかったんですが(笑)、ここばっかりは一生懸命やるしかないですね。人生で初めて、一生懸命という言葉の意味から考えましたから。

僕が思うに、一生懸命って「無心」「没入」ということだと思います。たとえば、アイロンをかけるのであれば、自分がアイロン(の機械の一部)になるくらい集中する。それくらいの気構えで、この厳しい時代を乗り切っていきたいですね。



 — 今後の目標やチャレンジしてみたいことがあれば、教えてください。


今お話したように、仕事は一生懸命に。それは大前提で、それとは別に、林家彦丸さんという若い落語家の応援をしたいなと思っています。居酒屋でたまたま隣り合って仲良くなった人が彼のファンで、そんなことから縁がつながって、今は月に1回、僕の自宅で独演会(林家彦丸 池ノ上落語会http://ameblo.jp/rakugokai/)を開いているんです。なかなか評判がいいんですよ。いつか、彦丸さんの落語で本多劇場を満員にできたら。それが今の僕の夢です。


 僕は、六代目三遊亭円生のように、鍛え上げた芸で魅せる噺家が好きなんです。噺家自身の人物が人気になるタイプよりも、ストイックな職人タイプの落語が聞きたい。彦丸さんは、まだ修行中ですが、円生師匠のタイプだと思います。興味を持たれた方、ぜひ一度、遊びに来てください。


 会社の内容をより良くするためには、社長が現在より良くなければならないのが当然のことです。そのために50年ほどやって来た洋服の直しに加えて、もう1つ「別のこと」として若い落語家の応援をしても良いのではないか、と思っています。
そうすることで、生涯、自分を成長させていきたいと思っています。


  


 取 材 後 記

インタビューは池ノ上の喫茶店で行いました。ICレコーダをまわし始める前に、コーヒーを一杯。飲みながら、一番最近の海外旅行のお話を伺いました。ハノイで現地の人と仲良くなって、観光名所をガイドしてもらったり、お礼に家族ごとホテルに招いてみんなで食事したり、あえて計画ずくでない旅の思い出は実に楽しそうでした。なのに、インタビューが始まると、「僕は人付き合いがうまくなくて」とおっしゃいます。「仕事なんか真面目にやらなかった」ともおっしゃいます。私にはどうしてもそうは見えないので、きっとそれらの言葉は、言葉の意味そのままを表しているわけではなくて、古宇田さんの謙譲さや照れ性を表しているのだと思います。古宇田亭に一度、落語を聞きに行ってみたいです。

( 記者:赤坂 麻実 )


記者略歴:
日経BP社ライターを経て現在、フリーライター。兵庫県出身、無宗教。主な仕事は、日経BP社『Tech-On!』、ダイヤモンド社『TV station』、潮出版社『横山光輝「三国志」大研究』。ほかに、専門誌や企業社内報、企業公式サイトなどに記事多数。趣味はスポーツ観戦、酒。企業の新製品発表や経営分野の記者会見、人物インタビュー、講演録など幅広く取材・執筆、承ります。ご相談・ご依頼はお気軽に。

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