れすとらん えむずぱぱ
mspapa
〒155-0031  東京都世田谷区北沢3丁目34-6北沢グリーンビル1F
TEL:03-3485-0601  FAX:03-3485-0601

下北沢な人々 - エムズパパ 水口 敏晴 -

下北沢な人々 - エムズパパ 水口 敏晴 -
今回は、下北沢の西口、一番街の奥にある「レストラン エムズパパ」を訪ね、オーナーシェフの水口敏晴さんにお話を伺いました。エムズパパは肉の美味しさにこだわった洋食店。大人がくつろげる店を目指すというオーナーに、その心意気や震災後の思いを語っていただきました。




 — 料理をするようになったのはいつごろからですか?


小学生のころです。母が仕事を持っていて、あまり料理に手はかけられず、よくシチューなんかを大量に作り置きしてくれていましたが、「もっとおいしいのを自分で作ってやろう」と思ってしまって(笑)。兄弟の分まで作って、喜んでもらっていました。

その後、大学時代にはしゃぶしゃぶ専門店のアルバイトでホールとキッチンを兼任し、社会人になってからは外食チェーンに入社しました。マネジメント職(店長)で入りましたが、厨房のことがわからなければマネジメントなんかできない、という会社の方針で、握り寿司や巻き寿司、ちらし寿司、いなり寿司など寿司全般を作るようになりました。その他いろいろな業態(懐石・会席・居酒屋・洋食・肉専門店)を担当し、そのつど、キッチンに入りましたね。


 — 子どものころから料理が好きで、そのまま外食産業に?


いえ、大学を卒業して最初に就職したのは製薬会社でした。たいした志望動機もなく、大手の医薬品メーカーに勤めれば親が安心するだろうし外聞もいいだろう、という程度の気持ちでした。

営業をやりましたが、長続きしませんでしたね。薬って、原材料費は本当に微々たるものです。でも商品になると高価で。もちろん、商品化されるまでに莫大な研究開発費がかかっているので、仕方がないとは思いますが、粗利が余りにも多いのがどうも納得いかなくて……好きになれない商売でした。


 — それで外食産業へ転職されたんですね。


転職して、外食チェーンに入社しました。23歳のときです。この会社には14年ほどお世話になりました。「食」の生産から消費までの全工程を知ることができ、とても勉強になりましたね。


 — 生産も、ですか?

直接、自分で生産したわけではありませんが、無菌豚やオーガニックの牛を自社農場で育てていましたし、農産物も自社栽培していました。20年前のことで、当時としては画期的だったと思います。私はその無菌豚などを扱うミートレストランの初代マネジャーを任せてもらっていました。


オーダーエントリーシステム(テーブルに設置された店員呼び出し用のボタンや、その受信器・表示器などの設備)を最初に導入した会社でもありましたし、いま思えば、いろいろと新しいことをやらせてもらえてよかったと思います。

海外勤務も経験させてもらいました。海外1号店となる中国店舗の初代店長に任命されたんです。スタッフは日本人が7~8人、中国人が60人。中国人に日本語は通じませんから、口であれこれ言うのではなく、まずやってみて、やらせてみて、評価(褒めるか叱るか)して、スタッフを育成しました。1年半ほどで帰国しましたが、ものの考え方や商習慣の異なるところで働かせてもらったのは、とてもいい経験になりましたね。



 — 日本人が中国で商売をするのはなかなか難しいと聞きますが。


難しいことも、確かにありました。(人種差別ではありませんが)日本人はうるさく言わなくてもそれなりに働きますが、中国人はあまりそうじゃなかったりします。約束は守らないし、仕事は手を抜くし、「休日の翌日は午後からの勤務にしろ」とか、自分勝手な希望も言ってきます。企業内の役職も、彼らに対しては説得力を持ちません。中国人は役職じゃなくスキルを見ている。できない人の言うことは聞かない。できる人のことは「老師」(先生)と呼んでついていく。シンプルです。

私は結局、特別なことは何もしませんでした。朝礼を欠かさなかったくらいでしょうか。「昨日はこうだったけど、これはよくなかった」とレビューをやって、日本語での「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」の練習をして。それを毎日まいにち繰り返しました。継続は力といいますが、本当にそうかもしれませんね。毎日を懸命に走り抜けて、気がついたら、人がついてきてくれていました。


 — 14年勤めた会社を辞められたのは、どんなきっかけで?


会社の先輩が、独立してオーガニックの食材を流通させるためのコンサルティングをしていたので、一緒にやらせていただくことにしたんです。「食」を通じて社会貢献したいという思いに共感して、2年ほど、その先輩の下で働きました。でも、コンサルティング業は自分には向かないなと感じました。虚業ではなく実業に携わっているほうが性に合うようです。

その後は10年ほど、建設会社の営業マンをやりました。妻の母がその会社の常務だったので、縁があって。バブルが崩壊した後のことで、仕事量は多くなかったので、このころ、サーフィンをまたやり始めました。土日が休みになったので、子どもともよく遊びましたね。子どもの友達をたくさん呼んで、ローストビーフや寿司を作ってやったり。「おいしい」「おいしい」と大絶賛で、気持ちよかったです(笑)。


 — その10年を経て、いよいよ「エムズパパ」をオープンされたんですね。


遠回りしたようですが、結果的にはよかったと思っています。店内の設計は、自分で図面を引くところからやりました。調理機器や料理のことがわからない担当の建築家には難しいと思ったからです。排気や排水、座席、動線などのレイアウトをミリ単位で考えましたし、照明、食器の選定など、しっかりこだわったつもりです。調度品はすべてオーダーメイドで、カウンターは6メートルの無垢一枚板。やりすぎるほどやった。自分ではそんな手ごたえです。せっかくおいしい肉を食べようというときに、雰囲気が安っぽかったら味気ないじゃないですか。

食材や機器にも、もちろんこだわっています。うちは肉が売りの店ですが、野菜サラダ一つ取っても、鳥のエサみたいなものは出したくないですから。安全で味のいい野菜をばりばり食べてもらいたい。そのため、冷蔵庫は野菜の鮮度を維持向上させる恒温高湿庫(庫内を低温で高湿度に保つ冷蔵庫)を導入しています。食の安全・安心に関しては、十分なことをしていると自負しています。

下北沢は若者の街といわれますし、実際その通りだと思いますが、大人がゆっくり楽しめる店があってもいいんじゃないかと思うんです。適当にあしらって帰ってもらうのではなく、きちんと接遇する店にしたかった。毎日通う店ではなくても、1?2週間に一度、楽しみに訪ねてもらえるような店を目指しました。

理想は、お客さまとコミュニケーションが取れる店です。日本のレストランは、客が偉くて従業員が下だ、という雰囲気のお店も少なくないですよね。お客さまは食べるだけ食べて黙って帰るばかり、というような。そうではなくて「おいしかったよ」「ありがとう」と声をかけてもらえるような店にしたいんです。料理への意見や感想もぜひ聞かせてもらいたいですね。


 — それは、厳しい意見も含めて?


ぜひ遠慮なく言ってもらいたいですね。辛らつな意見は、良い意見だと思うんです。こうあってほしいというニーズがあっての厳しい意見ですから。

ニーズは店にとって伸びしろです。お客さまの意見を聞き入れることで、店を良くすることができる。それに、厳しい意見をくださったお客さまが次に来たとき、前回気に入らなかった点が改良されていたらどうでしょう。私たちが、ただ決まりきったことを毎日こなすのではなく、向上心を持って取り組んでいることが、わかっていただけると思います。


 — 看板メニューは前沢牛のハンバーグとローストビーフ。これを選んだ理由を教えていただけますか?


「前沢牛オガタ」(http://www.jiyujin.co.jp/maesawa-ogata/)の3代目の小形くんと、大学時代からの友人なんです。私たちが学生だったころは、前沢牛の知名度はまだ全国区じゃなかったんですが、彼の実家で食べさせてもらって、おいしさに驚いた覚えがあります。

そんなわけで、若いころからどうも肉には縁があったので、自分でレストランを開くなら肉を推していこうと思いました。肉のプロである小形くんが大いに相談に乗ってくれましたしね。

肉の美味しさを皆さんにもっと知ってもらえたら、と思っているんです。日本で牛肉というと、サシの入ったものがおいしくて高級だ、ということになっていますよね。肉を食べて、そのおいしさを表現しようとするとき、まっさきに「やわからい」と言う人が多いことからも、おわかりいただけると思います。リッチかリーンかでいうと、リッチな肉がもてはやされている。


うちでお出ししているのは、リーンな赤身の肉です。ローストビーフにはランプ肉(牛もも肉の中で脂肪が少なく、しかしやらわかい部位)を使います。脂身の多い肉に比べれば、そこまでやわらかくはないですが、しっかり牛の味がします。食べて「しつこいな」「胃がもたれるな」という感じもないので、お年を召した方にも喜んでいただいています。なんといっても、うちのターゲットは40代以上の大人の皆さんですからね(笑)。


 — しかし、東北地方太平洋沖地震の影響により、福島原発から放射性物質が漏れ、前沢牛を含む岩手県産の肉牛は出荷停止出荷停止(8月1日~8月27日)に追い込まれてしまいました。

本記事取材日:8月15日


やりきれない思いです。「暫定基準値」という無根拠な基準で大勢の人が苦しんでいます。政府には、関係省庁から独立した「食のリスク」対策部門を立ち上げてほしいですね。その部門に民間シンクタンクなどから人を集めて、科学的根拠のあるしきい値を定め、一刻も早く意義ある全頭検査をしてもらいたい。メディアも、いたずらに不安を煽らないで、何が安全で何が危険なのか、正しく発信してほしい。このままでは、日本の第一次産業が崩壊してしまいます。


私どもの店では、前沢牛ハンバーグは販売中止、ローストビーフは個体識別番号で管理された肉を使っています。どの材料も十分に安全を確認していますし、そのことを7月下旬には店頭に貼り紙をして周知もしています。しかし、風評被害からは免れません。客入りは平時の7割ほどにまで落ち込んでいます。


出荷停止を受けて、肉の流通量が減り、仕入れ値は上がっています。ランプ肉で2~3割ほど上昇しているでしょうか。ローストビーフは今、売れれば売れただけ赤字が出るような状況です。もともと、ローストビーフは歩留まりが悪いというか、ロスの多いメニューですからね。

豚や鶏やほかの肉のメニューもあるので、ローストビーフは販売を取りやめたほうが、もしかしたら賢いのかもしれません。しかし、震災前と変わらずご来店くださるお客さまがいることを考えると、それはできないことなんです。


うちでは毎月、一つのメニューを普段より割安でご提供する「フェア」を企画しています。今月は迷いましたが、ステーキ(オーストラリア産の牛肉)でいくことにしました。スモークチキンにしたほうが、売れるのかもしれません。でも、私たちはこれまでも牛で勝負をしてきましたし、今ここで逃げるわけにはいきません。おいしい牛肉を食べてもらうことで、需要を少しでも喚起したいと思っています。


 — 震災後も変わらず来店されるお客さまは多いんですか?


「元気を出して」と声をかけてくださるお客さまもいらっしゃいますし、ただ毎週いらして、いつも通りに食事や雑談を楽しんで帰られるお客さまもいらっしゃいます。牛肉を避ける風潮があること自体をご存知ないという豪快なお客さまもいらっしゃいました(笑)。その話をしても「あらそうなの。全然気にしないわ」と、あっけらかんと笑い飛ばしてくださって。お客さまに勇気をいただいています。

 


 — 今は目の前の状況が厳しすぎて、長期的な展望を語りにくい時期かもしれませんが、将来の夢や目標を教えていただけますか?


この店は今4年目ですが、まだまだ理想には程遠いので、これからも「大人が楽しめる店」を追求していきたいです。いつだったか、クリスマスで満席だったのに、アルコールが一滴も出ないということがありました。ゆったりと料理やお酒を楽しんでもらえるように、工夫していかなければいけませんね。それから、今は店内での食事のほかにテイクアウトができるようになっていますが、将来はデリバリーもできるといいなと思っています。

もっと先のことでいうと、いつか仕事を引退したら、海の近くに住んで、晴耕雨読の暮らしをしてみたいですね。晴れたら子どもや孫(予定)と庭でバーベキューをして、雨なら本を読んで、波が立ったらサーフィンをして。サーフィンは始めてから結構な年数が経ちますが、今は年に一度くらいしか行けないので、せっかくコツをつかんでも翌年までには初心者に逆戻りしてしまうんです。将来、暇ができたら、かっこいい老サーファーになりたいですね(笑)。


 取 材 後 記

 「厳しい人だから、そのつもりで」と吹き込まれ、どきどきしながらのインタビューでした。でも、お話を伺ううちに「怖い人」じゃなく、あくまで「厳しい人」なんだとわかりました。とてもロジカル。論理の道筋がすっと一本通っているのが目に見えるような。
 取材を終え、客の一人として、お店で昼食をとりました。以前、インターネットの口コミで否定的な意見のあったところが、当たり前に改善されていました。「誠実」という言葉を思いました。感情的な意味と少し種類の違う、もっと厳格な意味で、態度の伴う「誠実」。肉好きの姉をここへ絶対、連れてきてやりたいと思いました。宣伝するつもりはありません。全くありませんが、美味しかったです。
( 記者:赤坂 麻実 )


記者略歴:
日経BP社ライターを経て現在、フリーライター。兵庫県出身、無宗教。主な仕事は、日経BP社『Tech-On!』、ダイヤモンド社『TV station』、潮出版社『横山光輝「三国志」大研究』。ほかに、専門誌や企業社内報、企業公式サイトなどに記事多数。趣味はスポーツ観戦、酒。企業の新製品発表や経営分野の記者会見、人物インタビュー、講演録など幅広く取材・執筆、承ります。ご相談・ご依頼はお気軽に。

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